奈良の秋篠寺は、近鉄西大寺駅から歩いて20分なので、割に便利の良い場所にあります。それでいて、しっとりと静まっているのが特徴でしょう。
ほとんどの人の目当ては、技芸天だと思います。顔は天平時代の乾漆作りで、少しうつむいて、優しさとともに憂いを帯びています。この表情がたまりません。
色の少ない古刹(こさつ)ですが、春先には華やかになります。モクレンが大きな白い花を無数につけるからです。日が当たれば、その白がまぶしく目に映ります。
秋篠寺の花といえば木蓮となりますが、木は1本だけ。しかし、黒ずんだ堂のとのコントラストが強く、無垢(むく)の色ながら、花はあでやかに振る舞って見えます。
花は開きかけに風情が強まります。産毛の生えた灰緑の皮が開き、白い花が外に出てき
ます。ほんのりと黄緑を帯びるつぼみ。少しずつ電球のような形に花びらを開き、純白に変わり、日の光をため込んでいたように、電球よりも輝くのです。(S)=2005年4月10日撮影